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横浜地方裁判所 昭和50年(ワ)916号 判決

原告 田村紀一 ほか六名

被告 日本道路公団

代理人 吉田克己 木暮栄一 星野明一 酒井義明

主文

一  原告らの主位的及び予備的請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実〈省略〉

理由

第一主位的請求原因について

一  原告らと被告との各売買契約締結の経緯

1  南横浜バイパス計画と住民の対応

請求原因1項のうち被告が南横浜バイパスの路線を決定した事実は当事者間に争いがなく、<証拠略>によると次の事実が認められる。右認定に反する証拠はない。

南横浜バイパスは、横港市保土ヶ谷区藤塚町から横須賀市衣笠町に至る二六・九キロメートルの高速道路で、昭和四四年五月二〇日建設省告示第二五六二号をもつて指定告示され、横浜市保土ヶ谷区藤塚町から同市金沢区朝比奈町に至る一四・七キロメートルの第一期工事は、同市保土ヶ谷区、南区、港南区、磯子区、金沢区に跨がる工事であつた。被告は右計画にもとづき関係地域の測量、関係地域住民に対する説明、用地買収等の交渉を開始したが、関係地域住民は、地域毎に反対運動を起し、「南横浜バイパス反対住民決起大会」等各種反対運動を展開した。なお、建設大臣は、昭和四五年五月一一日右第一期工事を、昭和四八年三月一五日同市金沢区朝比奈町から横須賀市衣笠町に至る第二期工事をそれぞれ許可した。

2  原告田村、同遠藤について

同2項(一)の(1)の(イ)のうち委員会が「主意書」及び「基本条件書」を作成し、右「基本条件書」に原告ら主張のような事項が記載されてある事実、同(1)の(ロ)のうち委員会が昭和四五年二月一九日被告に「主意書」及び「基本条件書」を提出し、同年三月一七日被告横浜工事事務所を訪れた事実、同(1)の(ハ)のうち昭和四五年当時、被告が横浜市磯子区洋光台附近で、横浜市が現在の野庭団地建設のため同市港南区野庭町で宅地造成を行つていた事実、同(1)の(ニ)のうち被告が昭和四五年五月頃測量を開始し、同年一一月一一日より昭和四六年一月二四日までの間に完了し、同年一二月二六日用地の買収価格を発表した事実、同項(一)の(2)の(ロ)のうち被告が本件土地(一)に赤杭を打ち込んだ事実、原告田村から被告職員等に代替地の要求があつた事実、同(2)の(ハ)の事実、同項(一)の(3)の(イ)のうち原告遠藤が委員会に加入し、本件土地(二)上に貸家を所有していた事実、同(3)の(ロ)の事実はいずれも当事者間に争いがない。<証拠略>を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 被告と委員会との交渉経過

(1) 横浜市港南区日野町内会役員内田康雄は、昭和四四年五月二七日日野第三対策委員会を組織し、日野地区における南横浜バイパスの路線変更を要求して運動を続けたが達成困難であつたため、昭和四五年二月一七日参加住民の会合を開催し、路線変更の要求から条件闘争に切換える意見をとりまとめ、従来の名称も日野第三交渉運営委員会と改めた。そして、参加住民は南横浜バイパス敷設に関する被告との補償交渉の権限を委員会に委任し、内田梅次、内田康雄他三名を交渉委員に選任した。

(2) 委員会は、要求を「主意書」及び「基本条件書」にまとめ、同月一九日被告東京第一建設局横浜工事事務所を訪れ、用地第一課長山本三郎に手渡し被告の回答を求めた。

右「主意書」には、「被告が「基本条件書」に記載の諸条件を認容したうえで、住民は被告の立入測量に同意する。」、旨「基本条件書」には要旨「(イ)工事内容、補償額の説明、(ロ)工事完成に至るまでに住民に生じた経済的損失に対する補償、(ハ)墓地の保存、(ニ)宅地の代替地確保、(ホ)買収土地及び建物に対する適正な補償、(ヘ)仮設住宅の建築、(ト)環境に対する配慮及び(チ)補償等についての住民及び委員会との民主的協議を求める。」と記載されてあつた。

(3) 委員長内田梅次等が同年三月一七日再び被告の右事務所を訪れ、前記「主意書」及び「基本条件書」について回答を求めたのに対し用地第一課長山本三郎は「基本条件書」記載の(イ)、(ハ)、(チ)の要求を認めたが、前記(ニ)の宅地の代替地確保について用地買収は金銭補償が原則であるとしてこれを拒否した。しかし、委員会が回答を不満として被告の立入測量を認めない態度を示したので、山本三郎は、神奈川県、横浜市が所有する土地を代替地を必要とする者に対し斡旋したいとして、一応の了承を求めた。

委員会は、その後、被告との右交渉結果を参加住民に説明したが、約七四名中約一〇名が代替地を要求しているにすぎなかつたので、以後代替地については委員会が被告と交渉することをやめ、代替地要求者に被告と直接交渉させることとした。

(4) 委員会と被告との間に基本的な合意をみたので、被告は、前記のとおり測量を開始し、同年一一月一一日から昭和四六年一月二四日までの間に完了し、同年一二月二六日日野地区住民に対し日野第三町内会館で買収用地の買収単価を発表するに至つた。

(5) その際、原告田村ら代替地要求者が代替地につき被告の説明を求めたところ、被告は委員会との間で代替地の問題はすでに解決し、用地買収は金銭補償によると表明した。しかし、右答弁が委員会役員の説明と異つていたので、原告田村が抗議をこめて再度説明を求めたところ、委員長内田梅次が、翌昭和四七年から税率が変更され課税額が高くなるため買収用地の売買契約を昭和四六年度中に成立させることが緊要であるから代替地の問題の解決を待てない、代替地については被告と代替地要求者とが個別折衝して解決がはかられねばならない旨発言し、その場では明確な結論を得るには至らなかつた。

(6) そして、原告田村、同遠藤を含めて委員会の参加住民中三三名はまとまつて、同月二八日、被告と土地売買契約を締結した。

(二)(1) 原告田村は公務員住宅に居住していたので、将来に備え、宅地の代替地を強く望んでいたこともあつて委員会に加入し会合にも熱心に出席していたところから、委員会と被告との「主意書」及び「基本条件書」による交渉結果を承知していた。

(2) 原告田村は、代替地に関心を抱いていたところから、昭和四五年五月頃本件土地(一)に赤杭が打ち込んであつたので抗議したときから翌昭和四六年三月頃までの間に再三、被告職員に対し代替地の有無を問い訊したが明確な返答がなく、同年一二月初旬頃被告職員本村精に対し問い訊した結果ようやく代替地がないことを知らされた。

(3) そこで原告田村は同年一二月二六日の被告の買収用地単価発表のとき、重ねて、宅地の代替地確保を要求し、被告職員から金銭補償による用地買収であると告げられたが、用地買収単価発表後被告職員本村精に対し代替地の有無について問い訊したところ、同人は代替地要求者が少いので原告田村に対し、適当な代替地の斡旋ができる意向を示した。

(4) 原告田村は同月二八日の被告との売買契約締結の際所用があつたので、同人の妻モトコに対し代替地の斡旋が明確に約束されないかぎり売買契約を締結しないよう申し含めて同人を売買契約締結の代理人とした。

田村モトコは売買契約締結の際被告職員に対し代替地の斡旋を要求したが被告職員が代替地の斡旋はしないと告げたので、売買契約締結をためらつたが、結局、被告に対し、請求原因2項(一)の(2)の(ハ)記載のとおり本件土地(一)を売渡した。

(5) その後、原告田村と被告との間で本件土地(一)に存在する工作物、立木の補償交渉が開始されたが、原告田村は昭和四七年一月一八日工作物、立木の補償額査定のときにも、一応被告職員に対し代替地の斡旋を要求したが、明確な承諾を得ないまま、結局、同年四月二七日被告と右工作物、立木等につき物件移転補償契約を締結した。

(三)(1) 原告遠藤は、当初から委員会に加入し、用地買収に関する交渉権限を委員会に委任していた。

(2) 委員会が被告と交渉した結果原告遠藤は、請求原因2項(一)の(3)の(ロ)記載のとおり本件土地(二)を被告に対し売渡し、更に、昭和四七年五月二三日、被告と本件土地(二)に存在する建物その他の地上物件につき移転補償契約を締結した(右補償には、移転先選定に要する費用も含まれている。)が、いずれのときにも代替地を要求していない。

右認定に反する<証拠略>は措信できない。他に、右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  原告門松について

請求原因2項(二)の(1)のうち原告門松と被告との間で宅地の代替地確保の合意が成立したとの事実を除くその余の事実、被告東京第一建設局横浜工事事務所用地第一課職員宇津木豊が昭和四七年二月一日本件土地(三)の売買契約書を持参して原告門松方を訪れた事実、同(二)の(2)の事実は当事者間に争いがない。

<証拠略>を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告門松は、横浜市磯子区岡村町の借家で靴下製造業を営んでいたが、昭和四四年一月一〇日、将来、住居兼作業場を建築するため本件土地(三)を買受けた。

(二) 原告門松は、同年一一月頃本件土地(三)が南横浜バイパスの買収予定用地となつたことを知り、昭和四四年九月一九日富士見台自治会館で開催された説明会に出席し、被告から南横浜バイパスの事業概要、移転補償、測量等の説明を聞いた。

(三) そして、被告職員宇津木豊が、昭和四七年二月一日本件土地(三)の売買交渉のため原告門松方を訪れたので、原告門松は、結局、売買に応じなければならないという意向であつたが、一応、売買代金の上積みと代替地の確保を要求したところ、宇津木豊は売買代金の上積みを拒否したが、代替地の斡旋については努力すると言明した。

そこで、原告と被告との間において、請求原因2項(二)の(2)記載のとおり本件土地(三)の売買契約が成立した。原告門松信夫本人尋問の結果中右認定の事実に反する供述部分は措信できない。他に、右認定の事実を左右するに足りる的確な証拠はない。

4  原告天野シヲ、同天野一彦、同天野憲二、同天野武について

請求原因2項(三)の(1)のうち被告が昭和四四年一二月一六日横浜市港南区野庭町地区住民に対し南横浜バイパスの計画につき地元説明会を開催し、原告天野シヲ他三名が所属する野庭町内会との間で用地買収につき数回交渉を繰り返した事実、同(3)のうち被告職員本村精及び同小野塚某が本件土地(四)上の建物移転補償交渉のため原告天野シヲ宅を訪れた事実、同(5)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

<証拠略>を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告天野シヲ他三名は、本件土地(四)に家屋四棟、物置一棟を所有し横浜市港南区野庭町内会に所属していた。

(二) 被告が野庭町内会館で開催した前記説明会においては、南横浜バイパスの計画に反対する意見が出なかつたので、その後、被告と野庭町内会の関係住民は買収用地の単価の交渉に入つたが、交渉の席上、原告天野シヲが野庭町内会長訴外織茂大策に対し代替地の確保を要求したいと意見を述べたので、同人は同席していた被告職員に、野庭町内会の関係住民のうち原告天野シヲ他三名だけが代替地の確保を要求しているので、今後、被告は原告天野シヲ他三名の右要求を尊重してもらいたいと口添し、代替地の確保を被告と原告天野シヲ他三名の個別接衝に任せた。

(三) 被告は、昭和四六年一二月三日野庭地区住民に対する買収用地の単価発表を行い、同月七日原告天野シヲ他三名は請求原因2項(三)の(5)記載のとおり本件土地(四)を被告に対し売渡した。

(四) 被告は、原告天野シヲ他三名に対し、昭和四六年一二月頃横浜市磯子区洋光台の土地を、昭和四七年一月頃同市港南区下永谷の土地をそれぞれ紹介し案内したが、売買契約の締結をみるまでに至らなかつた。

(五) 原告天野シヲ他三名は、同年二月二一日被告と本件土地(四)に存在する建物五棟(内一棟は物置)につき、移転補償契約を締結した(右補償には、移転先選定に要する費用も含まれている。)。

<証拠略>はいずれも措信できない。他に、右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。

5  原告らの分譲地の取得及びその後の経過

請求原因3項の事実、同4項の(一)のうち分譲地が市街化区域にあり面積一〇〇〇平方メートル以上の開発行為につき都市計画法による開発許可を必要とする土地である事実、原告らが被告に対し右開発許可の早期実現をはかるよう要求した事実、昭和五〇年九月八日現在分譲地につき開発許可がない事実、同(二)の事実は当事者間に争いがない。

<証拠略>を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 被告職員本村精は、昭和四七年一月二三日国鉄根岸線洋光台駅から徒歩一五分の市街化区域にある始沢所有の分譲地六〇〇坪が三・三平方メートル当り金一〇万円で売りに出ていることを知つた。そして、本村精が仲介人の宅地建物取引業訴外さいき宅建社と交渉し分割して売買する了解をとりつけたうえ、同日原告田村、同天野シヲに連絡し、同月三〇日同人らを分譲地に案内した。分譲地は地目が山林の傾斜地であつたから整地、土留、道路及び排水用測溝の設置等宅地造成工事が必要な土地で、前記のとおり市街化区域にあり、その規模が一〇〇〇平方メートル以上であれば、そのような開発行為につき都市計画法二九条の許可を受ける必要があつた。本村精は、同月下旬頃問い合わせをしてきた原告遠藤に対しても分譲地を紹介し、更に、同年二月九日頃被告職員宇津木豊とともに原告門松を分譲地に案内した。

(二) 分譲地は市街化区域にありその規模が一〇〇〇平方メートル以上であれば開発行為につき同法二九条の許可を受ける必要があつたことは前記のとおりであるが、原告らが取得する土地面積はいずれも一〇〇〇平方メートル未満であつたから、原告らが個々に宅地造成工事をすれば、右許可は不必要であつたことから、本村精は、原告らに対し分譲地の地目は山林であるが宅地造成することのできる土地であることを説明した。

(三) 原告らは、それぞれさいき宅建社の仲介により請求原因3項記載のとおり分譲地(一)ないし(四)につき売買契約を締結し、それぞれ同年三月二日所有権移転登記手続を了した。そして、原告らを含めた分譲地の買受人らは互の利害を調整する必要があつたし、勿論、各分譲地毎に宅地造成工事をするよりも合理的、経済的であつたので、売買契約に付随して、始沢との間に、同人を請負人として取得した分譲地全部につき工事代金三・三平方メートル当り金一万五〇〇〇円、期間同年四月一五日と定め、整地、石積による土留、水道、排水用側溝設置等の宅地造成請負工事契約を締結した。

(四) 始沢は、同年二月下旬頃都市計画法による開発許可を受けることなく右宅地造成工事を開始し、同年六月頃ほぼ整地工事を終了したところ、折柄の降雨で分譲地の土砂を下方にある団地へ流出させ、右団地との紛争にまで発展させたことが発端となり、同年八月頃横浜市から開発許可申請手続を要求されたが、関係者間に紛糾が生じ、開発許可基準に適合させる調整ができなくなつた。

そこで、原告らは、同年一〇月頃被告に対し右開発許可申請手続及び土地流出防止のための排水工事等に協力を要請した。被告は、協力を約し原告らに対し訴外株式会社日本土木設計事務所を紹介したり、横浜市や右団地の関係者等と交渉した。

(五) その後、汚水管理設費負担、道路幅員等解決困難な事情のため遷延したものの結局、昭和五三年四月一日分譲地につき建物建築制限は解除されるに至つた。

<証拠略>は措信できない。他に、右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。

二  そこで、原告らと被告との売買契約につき被告に原告ら主張の債務不履行があつたか否かを検討すると、認定事実によれば、原告らが被告に対し、すくなくとも宅地造成できる代替地を確保できるよう斡旋することを要求し、これに対し、被告職員が原告らとの売買契約を円滑に締結するため原告らに対し土地を斡旋することに応じたことは明らかである。

しかし、原告らと被告との各売買契約締結に至るまでの間、原告らが前記のような要求を機会ある毎に出していたのに対し、被告は、再三、金銭補償による買収であるとして代替地の提供ができないことを表明し、又、原告らとの各売買契約は、何の留保もなく、金銭補償の場合の通常の買収単価によりその代金額が算定されているのであつて、被告がこのようにして原告らと各売買契約を締結したのは、金銭補償と比較してはるかに複雑困難な代替地の提供をあくまでも避けたからにほかならないといえるのであるから、仮令、金銭補償による買収だけでは十分な満足を得ない原告らの要求によつて、前記のとおり、宅地造成できる代替地を斡旋することに応じたにせよ、いずれの事情によるかは問わず、この斡旋が首尾を得ない結果となつた場合に、これを解除原因とするような売買契約を締結することは代替地を提供することより困難複雑で、かつ、不安定な要因となることが予見されるところであつてまことに不合理であるから、右代替地の斡旋が原告らと被告との各売買契約の内容に含まれているとすることは到底できない。そして、被告は、前記のとおり原告らに対し始沢所有の分譲地を斡旋し、同人と原告ら間に分譲地(一)ないし(四)につき各売買契約が締結されたのであるから、原告らとの売買契約につき被告に債務不履行があつたとすることはできない。分譲地の宅地造成を遅延したのは、原告らから宅地造成工事を請負つた始沢が都市計画法による許可を受けることなく施工した開発行為が発覚し開発許可申請手続を要求されて関係者間に紛糾が生じたことによるものであつて、これを被告の責任とすることはできないし、分譲地が市街化区域にある土地であるからといつて、ただちに宅地造成ができない土地であるということもできないのであるから、被告の斡旋した分譲地が原告らの要求するような土地でなかつたとすることもできない。

従つて、その余の争点につき判断するまでもなく、債務不履行を理由とする各売買契約解除の主張は理由がない。

三  錯誤の主張について判断する。

前認定の事実によれば、結局、被告は、原告らの要求により宅地造成できる代替地の斡旋に応じ、履行をしているのであるから、原告らの動機はこれにより充たされたというべきであるし、その他前認定の事実から原告らと被告との各売買契約につき原告ら主張の錯誤があつたと認定する余地はない。

従つて、原告らの錯誤の主張は理由がない。

第二予備的請求原因について

一  まず、債務不履行による損害賠償請求について判断するに、原告らとの各売買契約につき被告に債務不履行がないことは、主位的請求原因について認定したとおりであるから、原告らの損害賠償請求は、その余の争点につき判断するまでもなく理由がない。

二  国家賠償法一条一項又は民法七一五条一項による損害賠償請求について判断する。

主位的請求について認定したとおり、分譲地が市街化区域にあり、一〇〇〇平方メートル以上の開発行為につき都市計画法による開発許可が必要であつたとしても、それだけでは宅地造成できない土地であるといえないし、原告らが個々に宅地造成すれば右許可も不必要であつたので、被告職員本村精は原告らに対し分譲地を宅地造成できる土地として斡旋したのであるから、この斡旋につき原告らが主張するような過失はなく、分譲地の宅地造成が遅延したのは、原告らから宅地造成工事を請負つた始沢が前記のとおり都市計画法による開発許可を受けることなく施工した開発行為が発覚して開発許可申請手続を要求され関係者間に紛糾が生じたことによるものであつて、分譲地の斡旋を捉えて原告らに対する権利侵害ないし違法の行為であるとすることはできない。

従つて、原告らの国家賠償法一条一項又は民法七一五条一項にもとづく損害賠償請求は、その余の事実を判断するまでもなく理由がない。

第三結論

よつて、原告らの被告に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 高瀬秀雄 菅原敏彦 豊永多門)

物件目録 <略>

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